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ウエちゃんのタクシー日記/場外編  - ウエちゃん

13稿 「オマエら、ホンマにえぇ加減にせぇ~よぉ!」 2001.10.02

読者の皆さんは説教泥棒と言うのをご存知でしょうか?
 そう、泥棒に入った家で家人に見つかると
「お前んとこはしっかり施錠してへんから泥棒に易々と入られるんや!しっかりせんかい!」
 と居直る心優しい親切なドロボーさんの事である。
 この話は関西の都会でもなく田舎でもない、ちょっと中途半端な某地方都市であった信じられないよぉ~な、ホンマもんの話である。
「JR駅前にあるタクシー乗り場の運転手の態度振舞い言動が余りにも酷い!」
「特に近距離を乗ると必ず文句いちゃもんを付けて来るので恐くてタクシーに乗れない!」
 と言う市民からの苦情を受けて、タクシー業界関連の関係者や鉄道関係者が話し合いタクシー乗り場を遠距離と近距離に分ける事にしたと言う。
 近距離乗り場は近距離であると言う理由だけでヤタケタ、イチャモンをつける運転手が多い為に、お客さんからの要望も受け入れて、 各タクシー会社のベテラン優良運転手のみに対して近距離乗り場で客待ち待機できる許可書を発行した。
 普段から近距離の客が乗ってきたら、先祖代々からの恨みのように文句ばかり言う悪逆運転手様には希望通りの遠距離専用乗り場で待機していただこうと言うものである。
 土建行政だけで発展した中途半端な地方都市のタクシー業界にしては中々の名案である。
 普段から悪逆無道三昧の運転手は流石にこの名案に納得して、大人しく遠距離専用乗り場で待機していると思われたのである。
 しかし、いざ蓋を開けてみると大笑い!
 お客さんも流石によく知っている!
 近距離乗り場には各社の精鋭の優良運転手ばかりが集まった為に、文句言い放題の運転手が待機している遠距離乗り場には誰も客が来なくなったのである。
 長距離でも親切丁寧な運転手が集まった近距離乗り場からお客さんが乗ってしまうのである。
 そんなん当たり前である。誰も好き好んで今まで文句ばかり言われ、行き先を行っても何一つ返事もせず
「ありがとうございます!」
「おおきにぃ。お客さん!忘れモン、気ぃつけてやぁ!」
 などと言う世間常識の言葉なんか、生まれてから一回も使った事がないタクシー運転手が集まっている遠距離タクシー乗り場から誰も好き好んで乗る訳がない。
 この駅の長距離乗り場は完全に門前雀羅の様相を呈しているのである。
 しかし、何を勘違いしたのかこの悪逆無道の不良運転手たち、
「不公平だ!改善しろ!」
 とタクシー関連の団体に抗議したのである。
 そしてその抗議を受けて関連団体が集まり、今後の対策の会議を本気で開いたと言うのだから開いた口が開いたままである。
 最終的には場所を提供しているJR側の「このままで!」の一言で終わったと聞く。
 『盗人に説教』『盗人猛々しい!』とはまさにこの事であろう。
 来年のタクシー自由化を前にして、スーパー・ウルトラ親切タクシーが街に溢れかえる筈である。こんな事では明日のタクシー業界は無いものに等しい。

 巷ではITに関する電脳技術が日進月歩である。
 ご存知の様にインターネットに関するバージョンアップも毎日の様に次から次へと更新して行く。
 あまりにも更新のスピードが速いため、古いアメリカ製のパソコンにインストールするウエちゃんも容量が残り少なくなって悲鳴をあげている。
 なぜか、タクシー業界のIT革命だけは革命前夜の静けさである。
 タクシー業界のITは完全に皮相浅薄である。この連載を何人のタクシー業界人が見ているのかと思うと、パソコンを打つ手に気力が入らない!

 2001年9月25日(火曜)晴 午後3時40分
 大阪市港区天保山にある海遊館より6人連れの観光客が2台に分乗して乗ってくる。
 行き先は大阪市北区大淀中の超高級ホテルのウェスティンホテルである。
 ウェスティンホテルは海遊館からだと、2回ほど曲がるだけのほとんど一本道で所要時間にして約20分、料金にして3000円前後の距離である。
 客は乗り込むなり中国山陰地方のキツ~イ訛りでウエちゃんに行き先のホテル名を告げた後に、
「運ちゃん、高速でいってぇやぁ~!」
 と言う。
 ウエちゃんはびっくりして、
「お客さん、高速やったら遠回りやさかいに五千円以上は絶対にかかりまっせぇ!よろしいんでっかぁ?」
 と小さい目を丸くして振り向いて言うと、
「それがどないしたんならぁ!それで、えぇんじゃないのぉ?ここへ来た時もそのくらいかかったんじゃけぇ!」
 と言う。
 客の話をよく聞くとホテル前の待機タクシーに乗ろうとしたが、客待ち運転手達の人相と態度、服装が悪かったので恐くなり、ホテルのフロントを通じで無線でホテル指定のタクシーを呼んでもらったと言う。
 田舎から大阪へ遊びに来た人は、大阪のタクシーは恐いという先入観がある為に、ウエちゃんのタクシーに乗って来る時も半分ビビリながら乗って来るのが良く解る。
 ほどなく黒塗りのロイヤル・サルーンのハイヤー仕様のタクシーがやって来た。
 運転手もきちっと身形良くスーツを身に纏い感じの好い運転手だったという。
 運転手はこの田舎から遊びに来た客から、田舎訛りで行き先を海遊館と聞くと、
「それじゃ、阪神高速で行きましょう!速いですから!」
 と言ったそうである。
 客は
「ワシらぁ、鳥取の倉吉の田舎から出て来て、大阪はなぁ~んも解らんのじゃけぇ、任せるわぁ!」
 と運転手に言ったという。
 しかしこの運転手「速いですから!」の前に「ちょっとだけ遠回りになりますが!」とは決して言わなかったらしい。
 ここが大阪の騙し運転手のテクニックである。
 タクシーは20分ほどで海遊館に到着。
 客は
「高速で速かったし料金に関しても一流ホテルが呼び出したタクシーだから何の疑いも無かった!」
 と言う。
「ほんなら、一般道で行きまっせぇ!」
 と言い、客から犯罪者扱いの疑いの目で見られたウエちゃん達の方と言えば、ちょうど大阪は25日の五十日(ごとび)の集金日と言う事でかなりの渋滞はあったが25分でウェスティンホテルへ到着。
 タクシー料金も3300円であった。もちろんこちらは一般道だから高速代なんて要らない!
 客はキョトンとした泣きそうな顔でウエちゃんを見つめて、
「運ちゃん!ひょっとしてワシらぁ、騙されたんかいのぉ?」
 と聞いて来たので、
「お客さん!騙されたなんて人聞きの悪い!足元を見られたんですわぁ!」
 と一応は言っておいた。
 まさに『天網恢恢疎にして漏らさず!』とはこの事である!


ウエちゃん

タクシー運転手と文筆の二足の草鞋を履く大阪のタクシー運転手
著書・・・
 『笑う運転手/ウエちゃんのナニワタクシー日記』
 『国道の西、夜明けのミナミ/ウエちゃんのナニワタクシー日記』
                    (両著とも…本の雑誌社より刊行)

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