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タクシーの思い出  - 林 雪江(はやし ゆきえ)

2稿 「釣りはいらないよ」 2003.11.12

私が中学生の頃、
「タクシーって、1kmぐらいの距離だと1000円札出してお釣は結構です。タバコでも買ってくださいよ。って言わないといけないらしいよ。いつもお母さんは、そう言ってるし。」と親友が教えてくれた。
「へぇーそうなんだ。」と私は大事な事を教わった気になった。
それから、強い雨が降ると通っていた駅前の塾から歩いて数分しかかからない自宅までタクシーに乗った。
「お釣は、いいです。タバコでも買ってください。」と1000円札を渡し、乗務員さんは、私に「すみませんね。」と言って1000円札を受け取った。
なぜ?すまなさそうに接してくるのか不思議に思ったが、一応、御礼の意を表しているのだろうと解釈していた。
だいたい、中学生になるまで1人でタクシーに乗った事がなく、親が料金を支払っているところなど、これまで注意して見ていなかったのだ。
しかも、「釣りはいらないよ。」という類の台詞は、お笑い番組で使われている事が多く実際、使用できる場面に遭遇し私はとても嬉しかった。そんな台詞を吐いたなら、馬鹿にするのもいい加減にしろ!と怒鳴られるのではないかと内心ハラハラもしていた。
しかし、そんな13歳がいたら気味が悪いにきまっている。今の中学生にも、ひょっとすると私のような子供がいるかもしれないが、「タバコでも買ってくださいよ。」と中学生に言われた日には、乗務員さんも複雑な気持ちがしただろう。そんな私も成長するにつれて、お釣りのルールは決められていないと分かり、お釣りを受け取るようになってしまった。
あれから十数年、
「1kmくらいの距離でタクシーに乗るのは気を使っちゃうよね。」という話題で妹と盛り上がり、ふとした会話で、妹がタクシーのお釣りを受け取っていない事がわかった。
「へぇーあんた、お釣りもらってないんだぁ。感心するねー。」と私が言うと妹は、
「え?私、お姉ちゃんに、お釣りはもらうなって教わったんだけど。」

そうだった。
当時の私は、妹にも教えておくべきだと思い、
「お釣はいいです。って、言わないといけないんだよ。」と、親友のお母さんが話していた事例を持ち出して説明したらしい。

今、思うとタクシーに関して誤解していた事は、それだけではない。乗務員さんの給与が歩合制であることを知らなかった私は、2時間もかかるような遠いところへ行くお客を乗せてしまった場合、
「今日は最悪だ。遠いところへ行くお客を乗せてしまったよ、疲れちゃうな。」と、乗務員さんは嘆いているものだと思いこんでいた。
そのため、都心から離れた地域に住んでいる私は、終電後にタクシーを利用する事になると必要以上に恐縮してしまうのであった。降りる際には、「わざわざ遠いところまでありがとうござました。」と心を込めて御礼を言い、乗務員さんの事を本当に気の毒だと思った。

現在はというと、私は遠いところまで行くラッキーなお客だよ。という気持ちを隠してタクシーに乗っている。
そして、乗務員さんにとって素敵なお客でありたいと願いながら帰宅するのであった。


第1稿 「憧れの職業」 も読んでみる

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林 雪江(はやし ゆきえ)

会社員
タクシーの利用頻度 月3回程度
タクシーで高速道路を走るとなんだか嬉しくなる

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林 雪江(はやし ゆきえ)

タクシーに関する呆れるような勘違いや思い出、タクシーにまつわる体験談を綴ったエッセイ