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平成徒然草 - 坂本 互(さかもと わたる)

33稿 「忘れてしまいたい2003年」 2004.04.23

出来ることなら忘れてしまいたいと思うことがこの世には沢山ある。2003年はまさにこのような嫌な出来事が次々と起こった年だった。そしてその出来事の影響は年内で終わらず、今年になっても暗い影を残している。「2003年を顧みて」という題名で原稿を書き始めてから早くも2ヶ月が過ぎてしまった。原稿を書こうと机に向かうのだが、すぐに心が重くなり書く気が失せてしまう。
それもその筈、参考にしようと昨年のニュースランキングを調べて見ると、暗いニュースばかりが累々と山を成している。それは米英が強行したイラク戦争の影響が世界を覆った一年だった。おそらく世界中の人が、個々の事件ではなく、この悪夢のような一年全体をそっくり忘れてしまいたいと思っているのではないか。

共同通信社が加盟マスコミ各社の投票で選んだ2003年の内外10大ニュース。

『国際ニュース』
1 米英のイラク戦争、フセイン元大統領を拘束
2 新型肺炎(SARS)が世界的流行、死者700人以上
3 北朝鮮が核開発表明、日米中韓などで6カ国協議
4 イラク統治評議会が発足したがテロ続発で復興混迷
5 中国国家主席に胡錦濤氏選出、温家宝首相と胡-温体制がスタート
6 米スペースシャトル「コロンビア」が空中分解、乗員7人が死亡
7 イラク対応で米国と欧州に亀裂、反戦の波が世界覆う
8 中国が初の有人宇宙船打ち上げ、宇宙大国の仲間入り
9 パレスチナ和平はテロと報復攻撃で足踏み
10 ジャカルタなどで爆弾テロ続発、東京にも警告

イラク戦争が圧倒的多数で1位。投票締め切り後にフセイン元大統領が開戦から8カ月ぶりに拘束されるというおまけまで飛び込んだ。フセイン政権崩壊後のテロの続発と復興の遅れが4位、戦争開始前の米欧の対立と世界を覆った反戦の波が7位となり、イラク情勢に翻弄された一年を印象づけた。いくらか明るいニュースといえるものは中国の宇宙船打ち上げだけだった。

『国内ニュース』
1 邦人外交官2人がイラクで殺害
2 衆院選で民主党躍進、与党は絶対安定多数で二大政党時代へ
3 長崎男児殺害など少年の重大事件相次ぐ
4 有事関連法が成立
5 イラク復興支援特措法が成立、自衛隊派遣へ
6 りそな銀行に公的資金投入、足利銀行は国有化
7 阪神タイガースが18年ぶりリーグ優勝
8 自民党総裁に小泉首相が再選、中曽根、宮沢両元首相が引退
9 松井秀喜選手が大リーグ・ヤンキースで活躍
10 個人情報保護法が成立、住基ネットが本格稼働

国内では、民主党が躍進した衆院選挙を抑えて、イラクでの邦人外交官2人の殺害がトップ。イラク復興支援特措法の成立と自衛隊派遣の決定が5位。4位の有事関連法の成立と併せ、戦後政治の岐路に立つ日本を象徴する年との受け止め方だ。その中で、スポーツ関係の2つのニュースが僅かな救いをもたらした。

スポーツの話題ではまだ他の選手の活躍を見逃せない。
世界水泳で北島康介2冠達成(7月)
杉山愛、日本人として28年ぶりにウィンブルドン女子ダブルス優勝(7月)
世界陸上、末続慎吾が短距離種目として日本選手初のメダル(8月)

 財団法人日本漢字能力検定協会は、漢字の奥深い意味を伝授する活動として、毎年年末に1年の世相漢字を発表してきた。2003年を表す世相漢字「今年の漢字」を全国公募した結果、過去最多の応募があり、「虎」が20%を集めて1位になった。ちなみに2位は「戦」の3%だった。いかに国民が嫌なことを忘れたがっているかが判る。

「虎」を選んだ理由には、長引く不況に加え、暗い出来事ばかりが起こり、どうしようもない閉塞感に苛まれる中、「ダメ虎」と言われていた阪神タイガースが久しぶりにセ・リーグ優勝を果たしたことに「やればできる」と感動し、久々に日本中が活気づいたことをはじめ、「虎の尾をふむ」「虎穴に入る」イラクへの自衛隊派遣問題に脅えたことなどが挙げられている。

中には、18年間「ダメ虎」と言われていた阪神タイガースに、ほぼ同期間、不況に苦しんだ国民の姿などを重ね合わせたり、マニフェストを掲げて「日本を変える」と訴えた政治家たちに星野監督の姿を重ねて、「ダメ虎」が「猛虎」になったように、日本も強く、変わって欲しいと期待感を抱く意見も多く、阪神タイガースの優勝が、人々に大きな夢と希望を与えたことがわかる。

その外に記憶に残ったものを挙げると
大規模再開発地区、六本木ヒルズが開業(4月)
発泡酒が増税により値上げ(5月)
サクランボ、梨、コメなど農作物泥棒が多発(6月)
秘書給与詐欺事件で辻元清美前議員らが逮捕(7月)
日経平均が10ヶ月ぶりに1万円台を回復(7月)

コンピューターウイルス「MSブラスト」の影響でウイルス対策ソフト販売急増(8月民主党と自由党が合併に調印(9月)
藤井道路公団総裁解任(10月)
土井たか子社民党党首、衆院選大敗を受け辞任(11月)
視聴率不正操作事件で日テレの氏家CEOが辞任(11月)

人間の記憶などというものはあてにならないもので、年月が過ぎると共に曖昧になって行く。特に嫌なことは思い出すまいという気持ちが働らくせいか、とかく詳細がぼけてしまう。何時、どこで、何が起こったのかは、あとからでも記録を調べることは出来るが、大切なのは其のとき自分が何を感じ、何を思ったかということである。これは余程身近に起こったことでない限り、出来事の記憶よりももっと早く薄れてしまう。この思いがこのコラムを書く原動力となった。
ブッシュ大統領が就任してから、アメリカの一国主義の政策は目に余るものがある。包括的核実験禁止条約(CTBT)、国際刑事裁判所(ICC)、地球温暖化などで我が道を行く勝手連を決め込んだ。その主張には自国のエゴが丸出しで理論的根拠が少なく、単にクリントン政権との違いを強調するためだけと思われるものもあった。

3月にアメリカはフセイン大統領に最後通牒を突きつけたが、それに至る迄の数ヶ月間に国連安全保障理事会で見せた言動にはあきれてものが言えない。この政権はまったく聞く耳を持たない。過去にこんなに独善的な政権があっただろうか。

イラク戦争はその目的や大義が明らかでないため、アメリカでなくブッシュの戦争と言われているが、占領後の復興計画に於いてもお粗末さが目立つ。そのすべてに国連無視、体制変革、先制攻撃、外科手術的空爆、占領、と一国主義的傾向が止まらない。すべて均衡を欠いている。いまの米国はほとんどヒステリー状態だ。

先制攻撃を野放図に適用していった場合、世界は混沌に突入する。このままでは米国がならずもの国家となってしまう。残念なのは、わが国の小泉政権が初期の段階からブッシュの政策に賛成の意を表し、自衛隊の派遣に踏み切ったことである。

イラク戦争が始まってすぐ、女性兵士救出劇が大きく報道された。電撃的救出劇は、翌日の米各紙に大々的に報じられた。見出しの多くは「セービング・プライベート・リンチ(リンチを救え)」。第2次大戦の米兵救出を扱ったスティーブン・スピルバーグ監督の「セービング・プライベート・ライアンに引っ掛けたものだった。

この事件が国防総省と契約したPR会社が企画したでっちあげだったとは。戦争では何でもありとはいえ、そこまでやるかという思いがする。これ以降、私はブッシュ政権の言うことを素直には信じられなくなった。このように国民を戦争へと駆り立てるアメリカ政府のプロパガンダの手法にはあの湾岸戦争の時の「ナイラの証言」を思い出させるものがある。

イラクのクウェート侵攻から2カ月後、米議会の公聴会で15歳のクウェート人少女ナイラが「病院に乱入したイラク兵が生まれたばかりの赤ちゃんを保育器から取り出して床に投げ捨て15人が死んだ」と証言した。少女は奇跡的に脱出、アメリカに逃れてきたと説明されていた。ナイラの証言がどれだけ国際世論を怒らせたことか。

ところがこの少女は在米クウェート大使の一人娘で、アメリカで育ちクウェートには行ったこともなかった。PR会社がナイラにウソの証言をさせていた。

ブッシュ大統領や小泉首相は今でもこの戦争は正しかったという姿勢を崩していないが、1年たった今この戦争に対する世界の評価が固まりつつあるように思はれる。それはこの戦争が世界に強いた犠牲と代償が余りにも大きいからだ。

米英軍が人々をフセイン政権の圧政から解き放ったことは間違いない。しかし中東の民主化へ道は開かれただろうか。むしろ鬱屈した反米感情が無力感とない交ぜになり、沈殿した澱が発酵してテロやゲリラとなって発散されている。

開戦後の民間人の死者は1万人を超えるとの推計もある。宗派や民族の利害対立から、国家再建はなかなか軌道に乗らない。米国の最大の誤算だろう。

戦争は、固かった米欧の同盟にも深い亀裂を生んだ。それに代わるはずの「有志連合」の一角も崩れかけている。

一番大きなものを失ったのは米国自身ではないか。戦争の大義を次々と言い換え、自分の都合で戦争を正当化する姿勢が、アメリカの軍事力を地球の大樹と考えていた世界からの信頼を失ってしまった。そして、あの9・11テロに寄せられた世界の同情も薄れてしまったように見える。

第32稿 「美しき瀬戸内とさわやか山陰旅情(最終回)」 も読んでみる

バックナンバー 平成徒然草

坂本 互(さかもと わたる)

元タクシーサイト代表取締役社長、現在タクシーサイト顧問
元タクシー問題懇談会会員
元イースタンモータス常務
株式会社システムオリジン顧問
東京におけるタクシー向けコンピュータシステムの草分け的存在

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