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平成徒然草 - 坂本 互(さかもと わたる)

32稿 「美しき瀬戸内とさわやか山陰旅情(最終回)」 2004.01.06

旅の感想を書き留めておこうと始めたたった3日間の旅行記が思わぬ長さになってしまった。以前、ある新聞に載っていた格安ツアーについての記事が気になっていたせいもある。『すし食べ放題のツアーが、海苔巻きといなりばかり、客の怒りを女性添乗員の涙で鎮めた、という話を聞いた。安いのには理由がある。中身をよく吟味しよう。』とあった。
 日本バス協会の話では『格安ツアーが増えたのは、バス事業の規制緩和の影響だという。この15年で貸し切りバス事業者の数は3倍近く増えて過当競争になり、運転手・ガイド付貸し切り料は季節によっては5万円以下になる。そのため安全面にお金をかける余裕がないのが実情』という。

 『添乗員は派遣会社に所属し、低賃金で季節差も大きく早朝から深夜まで働いているのが実態という。一人でバス数台分の客を受け持たされるときもある』そうだ。我々の添乗さんも見るからに素人っぽく、見かねたガイドさんが手助けするほどだったが、一所懸命なのがにじみ出ていて、旅の終わりの挨拶の時には全員から拍手が湧いた。

 格安ツアーのからくりについて、『客の人数や売り上げに応じて土産店から旅行会社に協力費が支払われる。だから安いツアーほど土産店をはしごするのです。』と書いてあった。今度の旅でも各地で必ず立ち寄るお土産屋と昼の食堂がこれにあたるということが推察されるが、それにしても飛行機代やホテルの宿泊費を考えると、これで採算がとれるというのは魔法のようである。35名というのがぎりぎりの採算分岐点なのだろう。

 バス旅行では2時間毎のトイレ休憩は必須となっており、何処かにたち寄らよらなければならないので、お土産屋と旅行会社は持ちつもたれつの関係だと思う。見ていると格安ツアーなのに、みんなは驚くほど沢山買い物をするのである。きっと旅行会社が適切な店を選んでいるのであろう。出発のときには、いつも頭の上の網棚が一杯になる。まあ、民放の番組にはコマーシャルがつきものと考えればよいのである。

『三日目』
 市内にある萩焼の窯元を見学した。ここもコマーシャルの一つだが、店先で登り窯の現物にお目にかかれるなど焼き物の勉強が出来る。ここで茶碗の底にある切り込みについて教えてもらった。江戸時代に、窯元は大名に抱えられて、萩焼きを献上していた。そして庶民が使うものには、高台に切り込みを入れて、わざわざ傷物ということにしていた。

 現代でも窯元では両方作っていて、人間国宝の人が作っても切り込みが有る物と無い物があるとのこと。切り込みがあるなしは価格には関係がなく、商品の焼けや景色のいい物が高 くなると説明されても、私には焼き物の良し悪しは全く分からない。別室にモダンアートの大きな焼き物が展示されていたが、私はそちらの方が面白かった。

 秋吉台までノンストップ。山口県では山道になると、白ばかりでなく黄色に塗られたガードレールが現れる。よく目だって交通安全には効果抜群。ここは修学旅行のメッカなので、私と妻以外は2度目の訪れとなる。大きな木の生えていない大草原、それが秋吉台だった。珊瑚礁が石灰岩となり、地殻変動で陸地になり、広大なカルスト台地となったと説明されたが、もし草が生えていなかったら物凄く大きな岩なのだ。

 なにしろ3億年もかかったと言われても、見えるのは雨水に溶かされずに残った面白い岩の造形だけだ。展望台で記念写真を撮っていたら、この真下が有名な秋芳洞で、そばにあるコンクリートの建屋が直通のエレベーターだと教えられた。自然が3億年もかけてやっと造り上げた自然になんという醜悪な自然破壊をするものだろうか。

 我々はちゃんと正規の入り口から入って秋芳洞を歩いた。延長約10キロと言われているが観光用に照明をほどこし整備されているのは1キロである。造化の妙とはまさにこのこと。その素晴らしい眺めに圧倒される。照明に黄金色に染められた鍾乳石がはるかかなたの天井から下がり、立ち上がり、目のとどくかぎりに広がる。

 地下を流れる川が地上に顔を出すところが出口で、「ああ、凄かった。さすが東洋一と云われるだけのことはあるね。」と感心していたら、このような鍾乳洞がまだ沢山あり、新しいものもどんどん発見されているというから驚きだ。そのうち秋吉台は中ががらんどうになって崩落するのではないか。今のうちに見ておいてよかった。

 ここで昼食をとり、次の山口市まではほんの一走りだった。周防の国の中心で大内氏文化の多くが残る市内は素通りして、その郊外の瑠璃光寺に立ち寄った。ここに建つ国宝の五重の塔は今回の旅行の圧巻だった。足利幕府に対抗した大内義弘の菩提を弔うために建てられたもので、桧皮葺き、総桧造り、各層共軒の出が深く、屋根の勾配がゆるやかでその古びた色になんともいえない優雅さを感じる。池泉回遊式庭園を臨む小高い丘に建てられ、双方相俟って全国でもその美しさで随一といわれる。

 初日に備中国分寺の五重の塔へ寄った訳がここで分かった。軒の反り上がりの技術は和と漢の様式の融合で室町時代に確立したものだが、手間がかかりすぎるので江戸期には廃れてしまったそうである。備中の五重の塔は江戸期に創建されたもので、瑠璃光寺の塔を引き立てるための「美女と野獣」の図式を思わせる。私は今でも、時々ここで撮った写真を取り出してはため息をついている。

 岩国の錦帯橋は5連のアーチ形の木製で日本三大奇橋の一つである。長さは210m 幅5m 、巻金とかすがいのほかは一本の釘も使っていない。錦川の出水のために交通を断たれて難渋する領民を見かねて吉川藩が架けたものだ。現在の橋は約300年もった2代目が昭和25年の台風で流されたあとに再建された3代目だそうだ。

 錦川は山口県最大の川だというが、我々が行った時は穏やかな流れで子供が水遊びをしていた。しかしその河川敷は観光バスの駐車場になっていて、その広さを見れば洪水時の凄さが想像できる。有料の錦帯橋を渡って山の上のお城を眺めてすぐ出発、忙しい。それにしても中国地方のお城は皆高い山の上にある。難攻不落かもしれないが、攻めてくれないで無視されたらどうするのだろう。

 厳島と錦帯橋は殆ど隣りあわせで、観光ではいつもセットになっているので、私は岩国も広島県だと思っていた。橋を渡った茶屋に、「祝 甲子園出場! 岩国高校」と応援の横断幕が掲げられていた。この時点で優勝候補の広島・広陵高校は初戦で敗退したのを知っていたので、ああここはまだ山口県なんだと判った。

 岩国から宮島口まではあっと云うまで、名物の紅葉饅頭には種類が多く最近では洋菓子風のものもあるという説明を聞いているうちに船着場に到着した。遊覧船で宮島に渡る。海からぬっと突き出た赤い大鳥居が印象的。その奥に社殿がひろがっている。ああ、これで日本三景を全部見ることが出来たというのが始めの感想だった。

 ここでももみじ饅頭屋のおばさんが案内役だった。「持ち物は地面に絶対に置かないでください。」と云っているうちに、他の観光客が写真を撮っている隙を狙われて鹿に紙袋を食べられて悲鳴を上げていた。あの大鳥居は基礎を固めて建てたのでなく、ただ置かれているだけ、だから4本の補助柱を持っていて自分の重さを錨としているというのが面白く、お土産の模型でもその安定の良さが確かめられる。

 厳島神社の回廊を回りながら説明を聞いたが、人が多すぎて殆ど聞こえなかった。御神体は山そのもので、この建物は全部が拝殿だそうだ。それで海の中に建っている訳を納得。回廊から見た大鳥居も絵になる。お参りしたときは潮の高さが丁度良い時間で、観光パンフレットの通りだった。 帰ってきてから暫くして「高潮で厳島神社の回廊冠水 今年初めて参拝一時中止」というニュースが流れた。

 遠く山の上に豊臣秀吉の建てた千畳閣という経堂と五重の塔が見えた。今回の旅はどうも五重の塔に縁があるが、赤く塗られたこの塔はいかにも派手好きな太閤さま好みで、芸術性とはとんと無縁のものだ。

 これでツアーの全行程を終了し広島空港へ向かった。広島市内を少し見れるかなと期待したが、バスは殆ど山側の市郊外を走った。空港に着いてお別れの挨拶、ガイドの三須さんには全員から万来の拍手が送られた。本当に素晴らしいガイドさんだった。

 空港内で念願の広島流お好み焼きの店にめぐり会った。目の前の鉄板で焼いてくれる本場式でなく、調理場でお上品に仕上げたもので量も少なかったが、味はワンダフルだった。いろんな種類を注文してみんなで皿に取り分けてそれぞれの味を堪能した。お好み焼きは広島に限る。若い連中はそれから尾道ラーメンを試しに行った。うわばみの胃を持っている、あれでは太る訳だ。

 人はなんのために旅をするのだろう。若い頃は、知識を深め日常生活に役立たせるためなどと考えていたが、私の齢になると新たに得たものを活用するチャンスはそう多くはない。綺麗な絵を眺めるように、新しい土地の景色を見たり美味しい料理を味わったり、その時限りの楽しさを堪能するだけでよいと思うようになった。更に愛する家族と楽しい想い出を共有できればもう云うことがない。

 私の頭の中では、未踏地は白地図になっている。こんな忙しい旅なのに、通過した土地の地図には風土に応じた色が着き、そこで活躍した歴史上の人々に魂が入るように感じられる。甲子園大会では、行った先の高校が出るとなんとなく親しみを感じ、いつの間にか応援しているから不思議である。短い日程をバスで駆け巡る旅は相当体力を要する。最終日の万歩計の目盛りは2万歩を指した。さて、次の格安旅行はどこにしようか。

第31稿 「美しき瀬戸内とさわやか山陰旅情(3)」 も読んでみる

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坂本 互(さかもと わたる)

元タクシーサイト代表取締役社長、現在タクシーサイト顧問
元タクシー問題懇談会会員
元イースタンモータス常務
株式会社システムオリジン顧問
東京におけるタクシー向けコンピュータシステムの草分け的存在

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