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平成徒然草 - 坂本 互(さかもと わたる)

29稿 「美しき瀬戸内とさわやか山陰旅情」 2003.10.01

9.11の同時テロ以来不景気やSARSのせいで青息吐息の状態が続いた観光業界だったが、どうやら今年になって国内旅行を中心に曙光が見えてきたようだ。JTBの発表によれば、沖縄と北海道へのツアー人数は前年に比べ50%以上も伸びているという。観光が主要産業となっている両地方だけに、その回復を地元の人と共に慶びたい。
 ある人は現代人にとって旅行は衣食住に次ぐ重要な生活の要素になっているという。生活に余裕ができると、衣食住という概念は生存に必要な最低限のという意味合いから離れ、むしろ贅沢性を重視した生活の質を計る要素が強くなる。

 最近の日本では各地でブランド品の専門店の店開きが相次ぎ、グルメブームで一日中テレビではグルメの特集をやっている。ホームレスは増えているが、住宅の仰天リフォームが人気番組となっている。小泉首相が側近に本当に日本は不況なのか尋ねたそうだが、殆どの人はたいがいの物は持っており、さしあたって特に買いたいものもない。こういう状況下では、人々の次なる欲求は旅に向かうことになるのであろう。

 私も旅は大好きで、若い頃からあちこちに出かけたものである。当時はなかなか金と暇が両立せずゆったりした旅行など望むべきもなかったので、すっかり貧乏旅行が習い性となった。それでも今になると金も暇もなかった頃に行った旅が一番懐かしく思えるのである。それは一緒に旅した友人との思い出の方が強いからかもしれない。

 人間はなぜこんなに旅が好きなのか考えてみたことがある。猿人500万年、ホモ・サピエンス20万年の歴史から考えても、人間が一ヶ所に定住するようになった期間はごくごく短い。日本では弥生時代からなので2500年(最近500年古くなった)ぐらい前からか。それまでは石器・縄文時代で狩猟のための移動する生活だったと歴史の時間に教わった。

 野生動物がそうであるように、一つ所にとどまっていてはそのグループは全滅するしかない。旅は衣食住を得るための必須の手段だったと考えられる。それだからこそ、人類はアフリカの大地溝帯から世界中に広がることになった。そして、移動への欲求はDNAに刻み込まれ殆ど本能といってよいほど強くなったのであろう。

 日本では今ほど豊かでない時代からレクレーションとしての旅行が盛んで、平安朝時代には蟻の熊野詣でという言葉ができた。江戸時代にはお伊勢参りや富士講、長野の善光寺詣でのように信仰に形を変えた旅が庶民の間に大流行した。先達と呼ばれた山伏姿の世話役もいて、これは現代のツアー旅行の原型である。

 旅は道連れというように独り旅はわびしいものだ。どこへ行くかということも大事だが、誰と行くかということの方が重要となることもある。昔のアルバムを見ると、友人との観光旅行から次第に仕事関係の慰安旅行に移り、今では家族との思い出旅行が多くなった。これは一種の罪滅ぼしの意味もあるが私自身の最高の楽しみでもある。

 我が家の旅行は殆どのように車で出かけた。13年も生きた太郎という猛犬を飼っていたことと、その方があちこちに寄れて自由度が高かったからだ。今は全員が免許を持っているので運転の疲労は問題にならない。と他人には車旅行のメリットを強調するが、本当は我が家の貧乏旅行にとって日本の交通機関の料金はあまりに高すぎるからである。JRは長距離は新幹線以外はわざと使いにくくしているとしか思えない。

 新幹線は当初ビジネスマンのために作られたと思う。しかし一泊が当たり前だった大阪や仙台出張が日帰りとなったビジネスマンにとっては疲れが増しただけではないか。新幹線が出来ると在来線がなくなり地元民がかえって不便になったところもある。私が朝のウオーキングで通るディズニーランドの駐車場はいつも他府県ナンバーの車で一杯である。愛する家族のために奮闘しているお父さん達、ご苦労様です。

 今年も車でどこかへ行こうと話していたら、ボストンにいる長女から夫婦で夏休みをとれたので帰ってくると知らせてきた。久しぶりに家族が揃って旅行できると喜んだが、そこではたと困った。我が家の車は5人乗りなので3組の夫婦6人となると2台に分かれることになる。これでは折角の車のメリットが消えてしまう。ワゴンのレンタカーを使う案も検討したが、同じ理由で没となった。

 新聞に「美しき瀬戸内とさわやか山陰旅情」というツアーの広告を見つけた。往復とも飛行機利用で、3日間で5つの県を回って一人29800円という超低価格である。コースについてみんなに行ったことがあるかを尋ねると、修学旅行などで一部は行ったが殆ど始めての場所が多いようである。あまりに価格が安いのがかえって心配になったが、以前北海道ツアーで利用したこともある大手の旅行会社でもあり、これに決めて申し込んだ。

 それにしても9800円という価格付けを高額商品ではよく見かける。最近毎日のように新聞にDELLのパソコンの広告が出ている。その価格が99800円とか69800円で、なんとなく語呂が良いように感じる。申し込んだツアーも「ニッキュパ」で販売しやすい呪文のような効能があるのかもしれない。それにしても温泉旅館にも泊まれるのだし、どうしてこの値段で商売が成り立つのか不思議でならない。その秘密を今度のツアーでしっかり探してみよう。

この稿つづく

第28稿 「ほたるの思い出」 も読んでみる

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坂本 互(さかもと わたる)

元タクシーサイト代表取締役社長、現在タクシーサイト顧問
元タクシー問題懇談会会員
元イースタンモータス常務
株式会社システムオリジン顧問
東京におけるタクシー向けコンピュータシステムの草分け的存在

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