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平成徒然草 - 坂本 互(さかもと わたる)

25稿 「世界水フォーラム」 2003.03.28

例年3月と云えば、春一番が吹いて日一日暖かくなる季節だが、今年の弥生は2月よりも寒い感じで、湯島天満宮の梅林にはまだ梅が残っている。去年は各地で桜前線が2週間も早まり、花祭りに花がないところが続出したのと比べて大違いだ。寒い春を象徴するかのように暗いニュースが多い。
   このところ、世界中がブッシュ大統領に振り回されている。毎日のように国民に神がかりの演説をしていたら、とうとうローマ法王庁から戦争のために神の名を使うなとクレームが出された。大統領かラムズフェルド国防長官が何か云うたびに、世界中の株価が下がって景気は悪くなる。そして、アメリカに対する反感が強くなる。それでもアメリカ国民の戦争支持率が50%を超えていることが信じられない。

 国連はイラク問題で掛かりきりなのかと思ったら、ちゃんと他の仕事もやっているらしい。最近、新聞でよく世界の水に関する記事が目に付く。『宇宙船地球号SOS 70億人水不足の恐れ』これは国連の23機関が参加して纏めた淡水資源に関する国連初の包括的報告書で、16日から京都市で開かれる「第3回世界水フォーラム」に報告される。

 ところで「世界水フォーラム」ってなんだろう? すぐに立派なホームページが見つかった。この会議は,21世紀の国際社会における水問題解決のシンクタンクとして作られた世界水会議(WWC)が提案したもので,3年に1度「世界水の日」の3月22日に合わせて開催される。

 フォーラムでは、世界の水にかかわる政策決定者、学識専門家、技術者、企業、NGO等様々な立場の人々が一堂に会し、将来の水問題の解決についての議論を行う。閣僚級国際会議は、各国政府の水にかかわる政治家、水にかかわる国連機関などの政策決定段階で重要な位置付けにある人々を集め、フォーラムでの議論を踏まえた宣言文の取りまとめなどにより、政治的行動の位置付けを図っていく。

 2000年にオランダ・ハーグで開かれた第2回会議では、世界の水施設への投資は年間18,000億ドル必要としているが、現状は800億ドルにとどまっている現状を踏まえ、主に途上国に衛生的な水を供給するための資金援助が重要とする「世界水ビジョン」がまとめられた。

   今回は第3回目で、京都市を主会場に,滋賀,大阪を結んだ琵琶湖・淀川流域で開かれている。会期は8日間で、一万人の参加者が350もの分科会に別れて討議する。私は利害の対立する水問題をこんな大人数で討議して、意見をどうやって纏めるのだろうと心配していたら、会議が始まる前に今回のフォーラムの「閣僚宣言」の原案はちゃんと作られていた。

 会議に関係する日本の官庁は内閣官房 外務省 文部科学省 厚生労働省 農林水産省 林野庁 経済産業省 国土交通省 環境省 と殆どオールスターキャストだが、さすがに防衛庁は入っていない。世界の人の前では、いつもの縄張り争いの恥をさらすのだけはやめて欲しい。

 20世紀は石油資源獲得戦争の時代とか、石油文明の時代として歴史に記録されるだろうが、21世紀に入った今でもまだやっている国がある。しかし、人間は石油が無くても生きて行けるが、水なしでは絶対に生きてはいけない。

 それだけに『水を人類の共有の財産として平等に分配できるか』ということが21世紀の最大の問題となる。この命題が世界水会議の基調テーゼとなっているようだが、私は理想論だと云わざるをえない。水問題は即食料問題であり、急激な人口増加が続いている情勢を考えても、この21世紀の最大の不安要因をそう簡単に解決できるとは考えられない。

 中国のホータンでは、夏になると崑崙山脈の氷河が溶け、たった3ヶ月だけ幻のホータン川が出現する。ウイグル族はその水を集落で公平に分配して、豊かな収穫を得ている様子をNHKで観た。そこでは水の配給を得られない家族はどうなるかということも暗示していた。

 世界の水不足が深刻と云われても、昨年から世界各地で大洪水が相次ぐニュースを聞くと、温暖化で地球の状況が変わったのかなと思う。私も含めて、夏の渇水期以外に水の心配をしたことがない日本人は、世界の水事情に本当に疎いといわざるをえない。

 国連報告で淡水資源という言葉が出てきたが、水の惑星といわれる地球の全水量のうち海水は96.5%を占め、水資源といえる淡水は2.5%に過ぎない。その淡水の2/3以上が北極、南極の氷で利用できない。結局、陸地にある川、湖沼、地下水などの利用できる水は地球上の水の0.8%程度に過ぎない。知らなかったなー。

 地球温暖化で北極や南極の氷が溶ければ、世界の淡水資源が増えると考えたら現実はそんな単純なものではないらしい。温暖化の影響は気候を変え、水の循環が洪水や渇水被害をより大きく、かつ頻発させる原因となっている。今や、異常気象が平常となり、世界の多くの地域に深刻な災害を惹き起こしている。

 予想される海面上昇は、バングラデシュ、中国、エジプト、ナイジェリアのような標高の低い沿岸地域に多くの人々が住んでいる地域で、大規模な氾濫が発生するのではないかという不安を与えている。

 水や食糧不足、洪水による危険度の増加など、多くの水問題の大きな原因となっているのが急激な人口増加だ。すでに60億人を突破した世界人口は、2025年には80億人に達すると見込まれることから、さらに深刻な事態が予想される。

 人口の急増、産業の著しい発展によって水不足が増大しており、現在、アジア、アフリカなど31ヶ国で水の絶対的な不足に悩んでいる。また、水不足が深刻な食料不足をもたらしている地域も拡がっている。更に、下水道等の施設整備が追いつかない途上国を中心に著しい水質汚染が問題となっている。

 増大する水需要への対応やポンプ等用水技術の進歩によって、過剰な地下水の汲み上げが行われ、これに伴う地下水位の低下、地盤沈下が世界各地で発生している。さらに地下水の影響は水循環全体に現れ、地下水の水質の悪化や河川流量の減少などによって生態系にまで及ぶ問題に発展している。

 その代表が黄河の断流問題で、上流での灌漑用の取水のため下流では水が涸れ、あの大河に流れがなくなるという信じられないことが起きている。中国の穀物の約40%を生産する華北平原の大半の地域で、地下水位が1年間に1~1.5mずつ低下し、砒素中毒が住民の健康を蝕んでいる。これが国際河川だったら即戦争になるだろう。

 急激な土地利用の変化や森林の伐採により、大雨時の流出量が増大し洪水による被害が大きくなっている。将軍様の食料増産策を採った北朝鮮がその典型的な例で、朝鮮半島では別の国際河川問題が発生している。

 韓国の首都ソウルを流れる漢江の上流は北朝鮮の水源地帯で、大型ダムが建設されている。両国が戦争状態に突入したときに、北朝鮮がこのダムから一気に放水して大氾濫を発生させ首都ソウルに被害を与える可能性がある。その対抗策として国境のすぐ下流に空の大型ダムが建設された。世界でも例のない戦争防衛目的に建設されたダムだ。

 人間は生まれる国を選ぶことが出来ないが、いろいろと勉強すればするほど、日本に生まれてきて良かったと思う。しかし、まだ安心するには早すぎるようだ。日本は雨が多く水は豊富と思われているが、実は極めて大量の水を外国から輸入しているという研究がある。

 よく日本の食料自給率は40%とか言われるが、日本は大量の穀物や畜産物を外国から輸入している。もし、これを国内で生産したらどのくらいの量の水が必要になるのか。米1キロに5100リットル、牛肉1キロには10万リットルが必要となるそうだ。そうして計算した水換算の量は国内で使われる農業用水の2倍近いということだ。

 約100年前、日清戦争の賠償金の交渉のため来日した清の宰相・李鴻章が、山のてっぺんまで耕された段々畑を見て、こんな貧しい国に敗れたことが悔しいと嘆いたそうだが、この時の日本の人口は4000万人だった。食料の輸入が止まったら、日本は再び千枚田を復活させてもとても足りないだろう。幸いなことに現在の出生率が続けば、100年後には人口は6000万人に減るそうである。

『終記』
 フォーラムが始まって5日目、とうとう米・英軍のイラク攻撃が始まってしまった。双方共に30万人以上の正規軍の衝突だから戦争と呼ぶべきなのだろうが、後世の歴史書でも戦争として扱われるだろうか。私には、ヘビー級のチャンピオンが、嫌がるバンタム級のボクサーを無理やりリングの上に引きずりあげた図式に見える。

 申し訳ないことだが、バグダッド市民に「衝撃と恐怖」をもたらす巡航ミサイルの火炎を、日本ではお茶の間でテレビゲームのように眺めている。これでは重要な「世界の水問題」を討議する雰囲気はとても期待できなかったのだろう。始めと終わりに皇太子ご夫妻が出席された映像が流れただけで、新聞にも殆ど取り上げられることもなく「第3回世界水フォーラム」は閉幕した。

第24稿 「ギャング・オブ・ニューヨーク」 も読んでみる

バックナンバー 平成徒然草

坂本 互(さかもと わたる)

元タクシーサイト代表取締役社長、現在タクシーサイト顧問
元タクシー問題懇談会会員
元イースタンモータス常務
株式会社システムオリジン顧問
東京におけるタクシー向けコンピュータシステムの草分け的存在

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