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平成徒然草 - 坂本 互(さかもと わたる)

24稿 「ギャング・オブ・ニューヨーク」 2003.02.24

東京ディズニー・リゾートの玄関として舞浜駅に出現した「イクスピアリ」は、若者達の新しいデートスポットとして人気があるようだが、私のような年寄りにも楽しめるところが幾つかある。中でもシネマ・コンプレックスという形式の映画館はとても便利だ。小さな映写室が沢山あって、いつも違った映画を上映している。別にこれというあてがなくポッと出かけても、なにかしら観るものがある。おまけに料金はシルバー割引なのに、時々ポップコーンのサービスまで付く。
 映画を選ぶときに困るのは、「本年度アカデミー賞最有力候補」が多すぎることだ。まあ、満更嘘でもないのだろうが、こんなに多くては審査員も大変だなと同情する。だが最近観た「ギャング・オブ・ニューヨーク」 は文句なしに本物だった。この映画を小泉首相も観たそうだが、最近のアメリカについて何を考えたか聞いてみたい。

 題名から「仁義なき戦い」のアメリカ版を予想していたが、どうしてどうして、骨太のアメリカ史そのものだった。今までだれも描かなかった暴力と悪徳の支配するニューヨークの創世記の描写に私は完全に圧倒されてしまった。摩天楼が聳え立つ今のニューヨークからは、誰がこのような歴史があったことを想像できるだろうか。これはアメリカ史のコアとなる事実を描いたものであり、単なる物語ではない。

 私達はアメリカについて「移民たちが築いた国」とか「人種のるつぼ」とかいう表現を簡単に使っているが、インディアンや黒人以外にも民族や人種の違いで血みどろの争いがあったことを知らなかった。この映画はアメリカ史の重要な転換点となった時代と出来事を抉り取り、そのままをどうだと皿に載せて出されたようで、まさに目から鱗が落ちる思いがする。

 19世紀の始め、マンハッタン島の南は喧騒と猥雑さが入り混じった貧民街だった。街を支配するのはギャング団。そのギャングと結託した悪徳政治家が消防団や警察を私兵化して腐敗政治を行っていた。彼らはアメリカ生まれの移民の子孫たちで、アングロサクソン系のプロテスタントが多かった。

 一寸時代が進んで1845年、アイルランドで大飢饉が発生し、貧しい農民は大挙して大西洋を渡って来る。その数は10年間で200万人以上、その大半がカトリック教徒である。自らネイティヴ(固有のアメリカ人)と称する先住のアメリカ人はケルト系のアイルランド人を「薄汚いよそ者」と呼んでひどく忌み嫌い、激しい差別を行った。もう一度、移民の人数を見て欲しい。これは民族の大移動とも云える規模である。

この映画は、まさに両者の対立構図を背景に19世紀半ばのニューヨークを赤裸々に描いているが、当時のアメリカの縮図でもある。奴隷制度撤廃、長引く南北戦争から深刻な社会不安が増大し、アメリカ史上最大といわれる「徴兵制度反対の暴動」も出てくる。そんな世相を反映し、驚くほど治安が悪くスラム化した地域がいくつもあった。

 その一つがイースト・リバーのファイブ・ポインツで、今のチャイナタウンの辺りになる。 私が数年前に行ったとき、レストランに案内してくれた人に「この辺は一寸物騒なところだよ」と云われたが、回りにはそんな雰囲気は全然なかった。この映画を観た今なら相当ぶるッたかも知れない。

 「ネイティヴス」のギャング団の首領ビル・ザ・ブッチャーは実在の人物だそうだが、アメリカ鷲の義眼を片目にはめ込んだりして、ビルを演じたダニエル・デイ=ルイスの存在感が余りに大きくて、人気のレオナルド・ディカプリオが霞んでしまい、私はどちらが主人公か今でも迷っている。きっとアカデミー賞の主演男優賞が解決してくれるだろう。

 現在、アメリカの人口中アイルランド系は約4000万人を占め、移民の末裔はしっかりアメリカ社会に根づいている。それでもWASP(白人・アングロ・サクソン・プロテスタント)でない大統領ケネディを生み出すまでに約100年の歳月を要している。その間どんな努力があったのだろうか。

 99年8月、私は東部の保養地ケープコッドからマーサーズ・ビンヤード島に渡った。丁度その前日にケネディjrの飛行機事故が起きた。この島のケネディ家の別荘へ行く途中の出来事である。バスでその前を通ったが、外からは建物が見えないほど広大な森全体が別荘だった。連日、アメリカ全土のTVはその事件一色となり、ケネディ大統領が執務している机の下で遊ぶjrの姿が繰り返し放映されていた。

 最後は海軍が出動して、潜水部隊が海底に沈んだ自家用機を見つけ出したが、一民間人の捜索に軍隊を使用することの是非を問う声は何処からも出されなかった。未だにアメリカ人がケネディ大統領に抱く哀惜の念の大きいことを実感したことを思い出した。

 後日、尋ねたボストンのケネディ大統領の生家には花輪が一杯捧げられていた。そこは「エッ本当」と驚くほど小さく質素で、別荘とのあまりの格差に違和感を覚えた。そして、アメリカンドリームとはこれなんだと納得した。

 この映画を観て、私ははアメリカ人のものの考え方が少し解ってきたような気がしている。暴力団の首領ブッチャーは極め付きの悪だが桁はずれて強い。誰からも恐れられているが、不思議なことに愛されてもいるのだ。無法の時代には、暴力による秩序も必要悪となることもある。ブッチャーは警察や政治家も手を出せない悪のヒーローなのである。 「強いものが勝つ。」「勝たずんば正義なし。」いくら「善」でも負け犬には価値がないのだ。アメリカ人のDNAにはこの考え方が刻み込まれている。

 いくら犠牲者が出ても、議会では銃砲所持制限法案が成立しない。アメリカのスポーツには引き分けはない。二番手は駄目で、優勝しなければ価値がない。ベーブルースやタイガーウッズやマイケルジョーダンのような超人的なヒーローが大好き。

 もう一つは、共通の敵が現れたときにはアイデンティティ-を求めて一致団結する傾向が強いことである。始めは民族単位の同胞意識が主体となっていたが、次第にアメリカ人としての連帯感が生じ、現在ではチャンスがあればかえって愛国心表示欲が強くなっている。

 このアメリカ人の考え方を最もよく証明しているのはブッシュ大統領に対する支持率である。就任時の総得票はゴア候補に劣っていたため最初は軽く見られ、マスコミが大統領をジョークの対象にすることが流行っていた。

9.11の事件はその風潮を一新した。大統領を風刺したお笑いバライテイに抗議電話が殺到し番組は一時休止に追い込まれた。これ以降「ブッシュ大統領の悪口は言いません」がマスコミの大方針となった。

 「テロとの戦いは戦争である」、「生死を問わず、ビンラディンを必ず捕まえてみせる」、「アメリカに味方するのか、テロに味方するのか」。これらの単純で子供でも判るスローガンで支持率はうなぎ登りとなり、世界の世論もアフガン爆撃に異を唱える国はなかった。

「十字軍発言」、「フセインはパパの暗殺を計画した悪い奴だ」やブラジル大統領に「あなたの国に黒人はいるんですか」などの失言はあったがブッシュ語録が増えるだけで問題化することはなかった。

 その後の世界の動きを見ると、パレスチナ、チェチェン、バリ島でテロが続き、北朝鮮も一発触発となっている。イラクでは国連の査察団は何も成果を挙げられないのに、中東に配備された兵力は15万人を越えてしまった。

世界中にアメリカの独走を咎める声が大きくなってきた。国内でも無条件賛成から国際的孤立を心配する声が大勢をしめるようになって、さすがにアメリカ国内にも大統領の政策に批判する声が上がり支持率も若干低下気味となっている。

 今までのブッシュの発言の数々やペルシャ湾岸に集結されつつある大兵力を考えると、大凡でもx-day は決まっているのではないか。兵力の差を考えれば、アメリカ単独でも100%の勝利が保証されている。しかし、世界世論という点でアメリカに誤算があったように思える。ローマ法王の「戦争は最後の手段でなく、最悪の手段である。」という言葉が俄かに力を持ちつつある。

   これは全く根拠のない私の予想だが、3月のアカデミー賞の作品賞は、それまでにイラクで戦争が起きなければ、「戦場のピアニスト」起きれば「ギャング・オブ・ニューヨーク」になるだろう。

とにかく、『ギャング・オブ・ニューヨーク』は色々なことを考えさせてくれる映画である。

第23稿 「あなたに故郷はありますか」 も読んでみる

バックナンバー 平成徒然草

坂本 互(さかもと わたる)

元タクシーサイト代表取締役社長、現在タクシーサイト顧問
元タクシー問題懇談会会員
元イースタンモータス常務
株式会社システムオリジン顧問
東京におけるタクシー向けコンピュータシステムの草分け的存在

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