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『日本で大暴れしたら懲役5年』1月のロンドンの新聞にこんな記事が出た。 対アルゼンチン戦の会場になる札幌ドームなどを視察した英国外務省のデニス・マクシェーン政務官が、 「日本で風紀を乱した者は強制帰国。日本の法律に違反したフーリガンは最低でも5年の服役になり、 4年後の2006年のドイツW杯は日本の刑務所内でのテレビ観戦となる」と語った。 W杯開催を目前にして、テレビをはじめとするマスコミは、 連日のように「フーリガン報道」を流していた。そして本屋の店頭には、多くのフーリガンの関連本が並んでいた。 フーリガニズムを語るには、サッカーの起源に始まり、発生に至るまでの経緯、 そしてそれぞれの時代背景を学ばなければ、その全容をつかむことはできない。しかし、 日本のマスコミは、暴動騒ぎや警察官との格闘シーンのみを誇張して伝えてきたように思う。
この報道に踊らされて、日本の警察は防弾ガラス製の盾を開発するなど特別警戒態勢を整えた。 イングランドが出場する競技場に近い商店街では、試合当日には椅子やテーブルをかたずけ、シャッターを下ろして折角の売上チャンスをふいにした。 さて、あの悪名高きフーリガンは何処へ行ったのでしょう。 法務省入国管理局によれば上陸を拒否された外国人が64人いたそうな。
警察当局の水際作戦が成功し??、海外フーリガンの暴動は起きなかったが、 各所で和製フーリガンが燃えあがった。日本の決勝リーグ進出が決まった夜は、渋谷では夜遅くまで「お巡りさんごめんなさい」と合唱しながら大騒ぎを続け、 大阪では道頓堀川に1970人が飛び込んだ。
フットボールは競技人口としては世界最大で、4年に1度のW杯では世界中の人がサポーターとなり自国チームと共に戦う。 それはオリンピックの全競技を合わせてもかなわない熱狂的なものである。何故こんなに興奮するのか。単なる民族意識とも違う、 他のスポーツにはないもの。麻薬ほどではないがアルコール以上に人を酔わせる効果があり、しかもとても心地よいものである。 それはサッカーの生い立ちにあるのかもしれない。
フットボールは英国での村祭りの行事にその原型があると言われる。村同士の対抗戦で一つのボールを奪い合って、 得点すると同時に勝負は終わりとなる。みんなが長時間楽しむためには、単純でありながらなかなか得点出来ないというような工夫が必要となり、 これが今のサッカーのルールに引き継がれている。待ち伏せや先回り禁止が「オフサイド」となり、全員参加がサポーター精神に生きている。
サッカーは最もグローバル化されたスポーツと言える。小国でも実力選手は、普段はヨーロッパのプロリーグでプレイしているので、 選手の能力評価は世界的になっている。W杯ではそれらの出稼ぎ選手が、祖国の旗の下に再編成されたチームで戦うので、小国と侮ると手ひどい眼に会う。 地区予選では敵なしだったアルゼンチンや前大会優勝のフランスが、まさかまさかのグループリーグ予選で敗退するなど誰が考えただろうか。
サッカーとは不条理なスポーツだと誰かが云っていたが、今大会を観ていて本当にそうだと実感した。 98年のフランス大会でもヨーロッパ予選無敗で優勝候補だったスペインが大方の予想に反してグループリーグで姿を消したが、 この3チームには共通点がある。いずれも中盤にスター選手が揃っていて、よくパスが回り中盤を圧倒していたが点を取れなかったことである。 いくら華麗にボールを回せても、ガードを崩すことは難しくなってきている。
サッカーの得点シーンは思いがけない時にやってくる。だからサッカー観戦では・・しながらということが出来ない。 W杯クラスの試合では、得点は殆どミスが原因となることがよく判った。全員で守っているときにはまず点が入らない。 トルコ戦で日本は前半の立ち上がり早々のミスの1点に泣いた。韓国―トルコの3位決定戦では、開始11秒でハカンシュキュルがゴールし、 W杯での最短時間得点記録を更新し、これが結局命取りとなった。
最後はブラジルとドイツが残った。決勝まで比較的対戦相手に恵まれたことが大きい。「史上最弱」と国民から批判を浴びたブラジルと、 「世界のトップから10年遅れている」とベッケンバウアーが嘆いたドイツ。予選突破さえ危ぶまれた両国だったが、さすがはサッカー大国だとその底力を感じた。 試合はカーンの今大会唯一のミスが勝負の明暗を分けた。ドイツのある大新聞が負けたのはカーンのせいと報道していたが、 お前の胸には人間の心がないのかと憤りを感じた。
他のスポーツ、例えば野球などは3割バッターやホームランバッターが揃っているチームは強いし勝率も高い。 つまり数字は嘘をつかないのである。ところがサッカーは数字や世界的名声がしばしば人々の期待を裏切るのである。 これに加えて、審判の判定ミスという要素がしばしば試合の行方を左右する。サッカーは意外性のスポーツとも言われ、 このスリルがたまらない。私は今流行の1点先行したら閂を下ろして守りきるという戦術はサッカーをつまらなくしていると思う。 その意味で、点をとることを楽しむブラジルサッカーが優勝したことを喜んでいる。
今回の大会は、1点の重みを感じさせる試合が多く、世界的に守備のレベルが上がっているように感じた。 記録的に見ても1試合平均得点は2大会連続で減少していて、世界的に守備を重視する傾向が強くなっている。 国際サッカー連盟は2日、W杯MVPを発表したが、ドイツの守護神GKカーンが選ばれた。通算8得点で得点王に輝いたブラジルのロナウドは2位だった。 3位もやはり守備の人、洪明甫が入った。ゴールデンボール賞にGKが選ばれたのは初めてだ。試合後、ゴールポストの柱に寄りかかって、じーと放心したように 座っていた姿が忘れられない。
日本はプロリーグの歴史は10年しかなく、W杯出場2回目で勝ち点なしというサッカー後進国である。今回は開催国として予選を免除されたので出場できたぐらいに思われていた。 トルシェ監督は予選通過の可能性はあると云っていたが、国民の本音は引き分けでもよいから何とか勝ち点を上げて欲しいというものだった。それがなんと強国ロシアを破って 予選リーグ1位通過という思いもかけぬ好成績を納めた。こうなると更に欲がふくらんだが、決勝トーナメント一回戦でトルコに惜敗した。 韓国戦を見て納得したが、やはりトルコは日本が勝てる相手ではなかった。
今度の好成績で日本の実力は世界にある程度認められるようになったが、なんと言っても韓国チームの奇跡的進撃の前では霞んでしまった。 戦前は、日本の方が戦力が上と言われていたが、成績を見る限りでは今回は韓国の勝ちを素直に認めよう。好敵手が近くにいるということはヨーロッパまで遠征しなくても、 お互いに切磋琢磨して強くなれるということになる。おそらく中国が国を挙げて強化に乗り出すと思われるが、4年後には強敵となるだろう。
成績では遅れをとったが、日本人のマナーの良さや応援の公平さが世界から集まったフアンや新聞記者の賞賛を浴びた。特にカメルーンのキャンプとなった大分県の 山村・中津江村で演じられた素朴な村人とカメルーン選手団とのほのぼのとした心の交流は国民みんなの胸を熱くした。まるで中津江村は宮崎駿の アニメ・「思い出ぽろぽろ」や「となりのトトロ」の世界にしかないものを感じさせてくれた。深夜に小旗を持って「カルメンさん歓迎」に集まったおばあさんの笑顔が忘れられない。
次の日本チームの監督にはジーコに決ったが、どんなチームを作ってくれるのか楽しみである。ジーコの本名は・・・・私はなん回聞いても覚えられない。 やはりジーコでいいのだろう。誰もが指摘するように日本の課題は点をとれるFWの育成にある。Jリーグの得点ランキングで外人ばかりが上位を占める状況では お寒い限りだ。日本の黄金の中盤といわれる、中田、小野、中村、稲本とという布陣では、ほとんどがパッサーである。パッサーを何人も揃えても受け手がいなければ 彼らのパスも空を切るだけとなる。
相手の全員が引いて固めた守りを崩すには、ドリブル突破が不可欠となる。30年前に彗星の如く現れた黄金の脚・杉山隆一のような選手の誕生は夢だろうか。 若い人は知らないかもしれないが、東京五輪のアルゼンチン戦で電光石火のドリブルから先制ゴールを決めて歴史的勝利を呼び込み、 多くの日本人を驚喜させた日本のエースである。杉山のプレーは「サッカー初体験」をした大多数の観衆の期待に応える見事なものであった。 私のサッカー歴もここから始まった。
オリンピックの後、明大の学生選手にすぎなかった“マイナー・スポーツ”の杉山に南米プロから提示された 20万ドル(当時の為替レートで 7200万円)という金額は 世の人々を驚愕させた。世界のプロサッカーの市場スケールなど、まだ日本人の誰もが知る由もなく、長島茂雄の 1500万円という巨人軍入団契約金が今だに 伝説として語り継がれる……そんな時代である。誰も予想だにしなかった「サッカーブーム」がこの国に訪れようとしていた。そして、 それをもたらしたのがスーパースター・杉山隆一だった。
スーパスターが居なくても試合はできるが、それはサッカーではない。今度のW杯でもイングランドのベッカム選手の人気は社会現象となり、 あの独特の髪型が大流行した。今までサッカーなど見向きもしなかったおばさんまで多くの女性フアンを獲得した。 今、本国でも昼のワイドショーの人気者となっているようだ。不思議なもので、今まで若者の金髪や変な髪型に偏見を持っていた私だが、 W杯が終わった今ではそれ程違和感を感じなくなっている。
決勝戦の行なわれた6月30日にはブータンで、202位のブータン対203位のモントセラトのFIFA公認試合が行なわれた。 これはFIFAランクの「最下位決定戦」として話題になったが、なかなかに微笑ましい試合だった。 現在FIFA加盟国は204国であり、203位は最下位ではない筈だ。ランクから漏れている204番目の国はアフガニスタンである。 同国はアジアサッカー協会加盟以来、内戦状態の為国際Aマッチを1試合も行なっていない。国内を安定してサッカー競技ができる日が一日も早く来ることを祈りたい。
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●坂本 互(さかもと わたる)
元タクシーサイト代表取締役社長、現在タクシーサイト顧問 元タクシー問題懇談会会員 元イースタンモータス常務 株式会社システムオリジン顧問 東京におけるタクシー向けコンピュータシステムの草分け的存在
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