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阪神タイガースと読売巨人軍との甲子園での伝統(?)の一戦のテレビ中継が延びている! 今日はどうしても見ておきたい実録再現テレビドラマの放送日である。 このテレビドラマを見る為にワザワザ、タクシーの運ちゃんの仕事まで休んだほど気合が入っていた。しかし、テレビはまだ阪神甲子園球場からの野球中継をやっている。 そう、あれは数年前の近くて遠い記憶である。 いつ頃だったかは全く覚えていない!訳があって詳細な事は書けない! タクの運ちゃんの仕事中に、とある友人から個人的に呼び出された。夜になってとある場所で逢い、とある場所へと案内された。
「ウエちゃんに逢わせたい人がいてるから…いやいや見せたい人がいてるからちょっと某所まで行ってくれへん?」 「えぇよ!」 「しゃあけどその人を見ても声をかけたらアカンでぇ!」 「なんでやねん?」 「まぁ、行ったら解かるわぁ!びっくりするでぇ!」
タクシーは何分ほど走っただろうか? 別に何分走っても何時間も走ろうがどんなに長距離を走ろうが別に何の心配もない。とある友人の支払いは某社の社用タクシー券だからだ。
「ウエちゃん!ここでえぇよ!」 「ここいぅて…お前…?」 「ここでちょっとだけ待っとこぉかぁ?ウエちゃん!」 「なんやねん!いったい?誰やねん?」
そこは某社の大きな大きな敷地の出入口付近だった。 深夜に近かったので従業員のほとんどが引き払った後である。 何分経ったやろぉかぁ?建物の中から社員らしき若い男と夜警の守衛のオッちゃんが鍵を鳴らしながら出入り口付近に現れた。 「オッちゃん!早い事してやぁ!夜が遅いねんから!トロトロ、トロトロしとったらアカンでぇ!」 と若い男は会社を代表するようなエラソーなモノ言いである。 「ちょっと待ってねぇ!今、開けるからさぁ!」 と夜警のオッちゃは、ちょっと呂律が悪く聴き取り難いが綺麗な標準語である。 「早よ~、せぇやぁ!オッさん!」 と若い男はイライラしているのか人生の大先輩に対して言葉使いが荒くなっている。 「はいはい!どうぞ!」 と夜警のオッちゃんが薄笑い気味で言うが、 「遅いのぉ!ボケぇ!」 と若い男は捨て台詞を吐いている。 そして夜警のオッちゃんは何もなかったようにヨタヨタと事務所の中へ帰っていった。
「今の夜警のオッちゃんを見たか?ウエちゃん!」 「何を…?」 「今の守衛や!夜警のオッちゃんの顔やがなぁ?」 「あぁ、可愛そうになぁ!孫みたいな生意気な若い男にエラソーに言われとったなぁ!」 「顔を見たかぁ?…言うて聞いてんねん!」 「そんなん暗いのに見えるかいなぁ!ジブン何を言うとんねん!あの夜警のオッちゃんがどないしてん?全国指名手配の犯人かあ?」 「そんなんちゃうけどなぁ!」 「ほんならなんやねん?お前、アホかぁ!」 「今の夜警のオッちゃんが、あの石田さんやんけぇ!」 「はぁ~?…?イシダ、イシダ…?」
ウエちゃんが知っている石田と性がつく有名人と言えば…あの著名な旧・日本国有鉄道総裁の石田禮助ぐらいである。他に石田と言われても頭に出てこない。 頭を縦横前後ろ斜めに振っても出てこない。色々と考えて「ふぅ~~!」…と大きい息を吐き出した瞬間である。頭の中でランプが点いた!
「おい、おい!ひょっとして…もしかして…まさかぁ、あの石田さんかぁ?」 「流石にウエちゃんやなぁ!思い出したかぁ?」 「ま、まさ…?あの石田さんが…?そんなぁ?」 「そのまさかで、そんなぁが現実やねんでぇ、ウエちゃん!」 「しゃあけど、なんでジブンが知ってんねん?」 「………」 「石田さんが、なぁんで夜警なんやぁ?こんなトコで守衛なんやぁ?」 「さぁ、そりゃワイにも解からん!ホンマに流転の人生なんか、ひょっとしたらその時が来るんをジッ~と待ってるんかは、ワイらも掴めん!」
「おい、ウエちゃん?」 「なにぃ?」 「ジブンは赤穂浪士が好きやったわなぁ?」 「そぉや!めっちゃ大好きやぁ!死ぬほど好きゃ!ほんでも死にとぉは無いけど…」 「ウエちゃんは、あの浪士の中で誰がいっちゃん好っきゃねん?」 「そりゃぁ、やっぱり槍の名手の杉野十平次やなぁ!」 「浪曲に出て来る俵星玄蕃の道場で腕を磨いた奴やなぁ!ウエちゃん?」 「そぉやねん!」 「その姿を蕎麦屋に窶して討ち入りの日まで修練して待っとった奴やなぁ?」 「それそれ!三波春夫さんの唄と浪花節を聞いたら涙が出るでぇ!ホンマに!」 「ウエちゃんも修練に精進してぇ、その日が来るんを待っときやぁ!ジブン、考える事が一般人と違うてちょっと変やさかいに、 絶対になんかえぇ事があるかもしれんでぇ!頑張りやぁ!」 「ホンマかいなぁ?おおきにぃ!」
そう言えばあの当時、石田さんは日本国の大英雄だった! 恐らく参議院選挙の全国区に出馬したら絶対に上位当選であっただろう。 もしかしたら常時トップ当選の『ふるさとの唄祭り』…でお馴染みだった元・NHKアナウンサーの宮田輝(故人)さんより票を集めたかもしれない。 しかし、石田さんは突然に貝になり当時の某クラウン・カンパニーから身を引いた。 その石田さんがどうして夜警を…?人の目を気にしているのだろうか? しかし、今、昼の日中に石田さんを見ても名前を聞いても気が付く人は皆無に近いはずである。 いったい何の為に?やっぱり俵星玄蕃に出て来る杉野の十平次のよぉに、その時が来るのを耐えて待っているのだろうか?
あれから数年が経った。テレビの実録再現ドラマが始まった。 ほんの数十秒ずつ3カット前後だったが、貝になったはずのあの石田さんが登場した。ポツリ、ポツリと数言だが当時の様子を喋り始めた。 石田さんにしてみれば耐えに耐えた33年間である。 タクシー運転手の中にも耐えて耐えて、その日が来るのを待っている運転手が沢山いる。しかしその殆どのタクシー運転手はその気力が絶えてしまうのが現実である。 ウエちゃんはタクシー運転手になってまだ10年足らず。頑張るぞぉ~!
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●ウエちゃん
タクシー運転手と文筆の二足の草鞋を履く大阪のタクシー運転手 著書・・・ 『笑う運転手/ウエちゃんのナニワタクシー日記』 『国道の西、夜明けのミナミ/ウエちゃんのナニワタクシー日記』 (両著とも…本の雑誌社より刊行)
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