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ウエちゃんのタクシー日記/場外編  - ウエちゃん

18稿 「三方一両損は遠山の金さん!…やったかいなぁ?」 2001.12.04

月刊書評誌『本の雑誌/12月号』の情報によると、愛知県蒲郡市の名鉄蒲郡タクシー(株)さんが中日新聞の運転手募集の折り込み広告に『あなたも梁石日・ウエちゃんになれるかもしれない?!』…と言う広告を打ったそうである。
 本の雑誌に写真掲載された広告をコンビニへ行き拡大コピーしてよぉ~く見ると、サブのタイトルには「客待ちの間にゆっくり本を読む時間があります。」…と書いてある。
 文学界を代表する偉大な作家の梁石日先生(元・タクシー運転手)と同等に扱われたウエちゃんはめっちゃ嬉しぃ~~!ウエちゃんと同等に扱われてしまった梁先生としては迷惑な話だと思うねんけどぉ…!?
 しかし、客待ちの間にゆっくり本を読む時間があります!…とは、広告コピーとしてはなかなか勇気が有り冗談が解るタクシー会社とちゃうやろかぁ?こんなタクシー会社が日本国内にあったとは、タクシー業界の未来も捨てたもんとちゃいまんなぁ。ホンマに感心でんなぁ。
 名鉄蒲郡タクシー(株)さんとは、面識なぁ~んか全然あらへんねんけどぉ、あんたはエライッ!
 求人募集広告でウエちゃんの本の宣伝まで三河地区でしっかりとしてもらってぇ…おおきにぃ!感謝してまっせぇ~!もっとやってぇ~~!
 名鉄蒲郡タクシー(株)さんの求人募集のコピーにもある通り、最近の客待ち時間は極端に長くなっている。そんな時間の片手間に本を読んだり辞書を捲ったり、古文漢文を眺めていると自然と色んな知識が頭の中に入って来る。
 タクシー運転手仲間からはよく、
「ウエちゃんは何でも色んな事を知ってんねんなぁ!なんでぇ?」
 と聞かれることがある。
 そんなん簡単である。
 みんなが岸和田/甲子園/西宮競輪や園田/姫路競馬、それからご近所の住ノ江/尼崎ボートの予想を必死でしている時間に本を読み耽っているからだけの事なのである。
 しかし、ウエちゃんが知っている事は世間一般常識の事だけなのでそんなにずば抜けて何でも知っているという訳でもない。
 そんな長い客待ちをしながらタクシー車内で『ホームレス作家』(松井計/幻冬舎)を読む。この本はこれで読み返しが3回目である。そこそこ売れている作家なのにホームレスになってしまった松井さんご自身の実話でなかなか面白い。明日は我が身という感じもあり何回も読み返してしまうのである。
 すると突然後部のドアをノックする音が聞こえてくる。振り返って見るとタクシー運転手仲間の先輩運転手の杉村さんである。
「ウエちゃん!ちょっと聞きたい事があんねんけどえぇかぁ?」
 と杉村さんが後部座席に乗り込んで来た。
「なんでっかぁ?」
 と振り返りながら迷惑そうな顔丸出しで聞くと杉村さんは恐縮した顔で、
「あんなぁ、カッコ悪いねんけどちょっとだけ教えてくれへん?この2~3日はお客さんとの会話に出て来るかも知れへんからぁ!」
 と言う。
「えぇよぉ!なんやろぉ?何でも聞いてぇ!」
 とウエちゃんがエラソーに胸を張って言うと、
「今日の新聞になぁ、小泉さんの健康保険改革で『三方一両損』言うて書いてたやろぉ?大体の意味はなぁ、字を見たら解るねんけど、なんで三方が一両損すんのん?」
 と杉村さんが聞いて来た。
 いやいや、杉村さん!あんたも名鉄蒲郡タクシーさん以上にエライッ!
 タクシー運転手でこんなに向学心に燃えてる人、その日の新聞記事からの疑問をタクシー運転手仲間にぶつける人が全国で何人いてるでしょうか?こんな事を書くと又、タクシー業界筋の人から必ずクレームが来ると思いますが、はっきり言って皆無でしょう!
 聞くは一時の恥!聞かぬは末代までの恥!…と言いますが、タクシー運転手に小泉首相が昨日今日、何を発言したか聞いても答えられる人は少ないはずです。
 一日中暇があれば競馬や競艇の予想紙しか読まない人に杉村さんのような質問はできないのです。

「杉村さんは大岡越前は知ってるやろぉ?」
「知ってる!知ってる!月曜日の夜の8時からやぁ!」
「ん~~……!?まぁ、それでえぇわぁ!」
「おおきにぃ、ウエちゃん!」
「昔なぁ道で三両を拾ってなぁ、大岡越前のトコへ持ってきた人がいてんねん!落し主も大岡さまのトコへすぐに現れたんやぁ!」
「ほんなら一件落着やんかぁ!ウエちゃん?」
「そぉ~は、行かんのが大岡政談やねん!そんなに早いこと終わったら15分でテレビが終わるやんかぁ!」
「ほぉ~~!」
「落し主も拾い主もその三両は要らん言うたんやなぁ!ほんなら大岡さんが懐から一両を取り出して四両にして二人で分けたら二両ずつで、大岡さまも落し主も拾い主も一両づつ損やろぉ?解るぅ?杉村さん!」
「なんとなくぅ……!?」
「これまさしく三方一両損でこれにてぇ~、一件落着ぅ~!…ちゅうこっちゃぁ!解ったぁ?」
「……!?」
「これで一週間は客との話のネタに困れへんでぇ!」
「……!?」
「杉村さん!頭を整理しときやぁ!ややこしいさかいにぃ。」
「……!?」
「大丈夫かいなぁ?ちょっとワイに言うてみぃ!落し主と拾い主は誰のトコへ行ったんやぁ?」
「そんなん簡単やぁ!ウエちゃん!馬鹿にせんといてくれやぁ!アホちゃうねんからぁ!」
「ほんなら誰やねん?」
「遠山の金四郎やんけぇ!ウエちゃん!どやぁ?」
「杉村さん、ワタクシ参りましたぁ!」

ウエちゃん

タクシー運転手と文筆の二足の草鞋を履く大阪のタクシー運転手
著書・・・
 『笑う運転手/ウエちゃんのナニワタクシー日記』
 『国道の西、夜明けのミナミ/ウエちゃんのナニワタクシー日記』
                    (両著とも…本の雑誌社より刊行)

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